プログラムについて

音楽療法ではクライアントの症状、能力、嗜好、目標などを考慮し、より高い効果・満足度をもたらすプログラムを組んで実施します。

 

 基本的な流れ

一般的に高齢者の音楽療法プログラムは、おおよそ以下の流れで行われます。 

ウォームアップ - 展開 - ピーク - クールダウン

 

 具体的な活動

弊社の現在のサービスでは認知症予防、身体諸機能の維持強化、QOLの向上を目標にしており、活動もそれに適ったものになります。大きく分けますと、次の5つになります(順不同)。

 

  歌唱(童謡・唱歌・歌謡曲)

 音楽を使った手遊び体操

 楽器奏(打楽器・音程楽器)

 音楽を使った脳トレ(注意・記憶・遂行機能)

 コミュニケーション(セラピスト、時には参加者同士のやりとり)

 



おおまかには前半に機能維持改善目的のものを、後半にQOL向上目的になじみの楽曲で盛り上がれるように組んでいます。なお音楽療法は音楽教育ではないので、歌唱指導は致しません。

 使用する楽曲はさまざまですが、参加者の生きてきた時代、嗜好、目標、季節、その日の天候などにより決まります。軽度・健常者の場合は平成の曲や即時反応を必要とする即興的なプログラムもあり、重度の方が多くなるほど古くてなじみの深い曲が多くなります。さらにご要望・必要に応じて、情動への刺激(活性化・沈静化)、回想、運動促進などその場の目的を意識して選曲します。

 

 

衰えた身体・認知機能への配慮

加齢により心肺機能が衰えると息つぎ(ブレス)や発語に時間がかかるようになりますので、歌のテンポには配慮が必要になります。発声機能も若い頃から半オクターブくらいはキーが下がるので、これも適切な調整がないと歌うことが苦痛になります。ですので現場では参加者の歌いっぷりを見ながらテンポやキーを微調整して、無理なく楽しんでもらえるように努めています。またリズム感も落ちてきてフレーズの「入り」が難しくなってくるので、合図は大げさなくらい明確に示す必要があります。そして視覚機能も衰えると小さな細い字が読みにくくなります。これらを踏まえて、オケと歌詞には以下の配慮をしています。

 テンポを適度に落とす

 キーを無理のないところまで下げる

 リズムの取りやすいアレンジにする

 文字を読みやすい大きさ、字体にする

 

 

高齢者の脳機能と音楽活動

脳機能の面から見ると、外界からの音刺激が最初に届く聴覚野は脳の疾患でのダメージを受けにくい領域です。自分の名前も忘れた高齢者が歌は覚えていてしかも歌えるというのも珍しくありません。残存機能を生かすという観点からも、音楽は認知症患者が主体的にできる活動のひとつとして有用性が高いといえましょう。

ただし聴覚は加齢とともに高音域から聞こえにくくなり、チャンチャカ鳴っていると混乱するときがあります。リズム感も鈍ります。よくカラオケで絶句している方がいらっしゃいますね。みなさまも変拍子の曲で小節のアタマがどこかわからなくなって困ったことはありませんか?高齢者は一度リズムを見失うとなかなか戻るのが難しいのです。こうした混乱を避けるため高音域は必要なものだけにします。とはいえあまりに子供向けのようになっては認知機能の衰えていない方たちから不満が出ますので、その辺のところはセラピストの腕の見せ所ではないでしょうか。

聴覚野は運動野と強い結びつきがあり、音楽を聴くと動き出す衝動に駆られるのはこのためです。運動を促す手段として音楽はよく機能するので、通常はまず手遊びうたで運動機能の維持向上を図ります。音楽活動中は脳のあちこちで血流の増加が見られますが、その場所は個々で異なります。脳神経生理学の分野では有名な「同時に活性化するポーションは結びつきが強まる」という「D.ヘッブの法則」がありますから、音楽と運動を組み合わせたエクササイズを繰り返すことで、一人ひとりオリジナルのネットワークが脳内で強化されることになります。平易な表現でいえば「アタマの回転が早くなる」といえるのでしょう。なお、曲や活動によって活性化する場所も変わります。

また、上肢の拘縮を予防することも兼ねて打楽器奏を行います。脳に伝わるリズミカルな振動覚は歌唱との相乗効果で気持ちを大きくドライブさせるため、ピークの少し前に持ってきています。一定以上の運動量を稼ぐうえでも役立つので、離床時の活動や夜間に睡眠をさせたい昼夜逆転型の方にお勧めできます。ただし聴覚過敏の方が居るときは配慮が必要です。

音程楽器奏では注意機能や遂行機能を使うプログラムもあり、音楽で審美的な体験もできます。即興的なものからクラシックや映画音楽まで、脳には新鮮な刺激となることでしょう。

 

曲 の 間

人間は機械ではありませんので、歌ってばかりだと疲弊します。曲間の参加者とのやりとりはコミュニケーションだけでなくインターバルとしての意味もあります。現在の高齢者はほとんどが大正~戦前の生まれですから、教育勅語の時代から戦後の混乱期、GHQの統治を経て欧米文化の流入、高度経済成長を経験しています。「歌は世につれ、世は歌につれ」との言葉もありますが、歌とリンクした在りし日の長期記憶を呼び起こすことで懐かしさから情動も刺激されます。ここでは昔のヒット曲は記憶を引き出す、いわば回想の「いもづる」として機能します。曲間ではこの記憶を言語化してもらい、意図的にその表出を促しています。集団の力動もあって参加者の発語が活発になれば回想が回想を呼び、場は盛り上がります。

 

 

いつかはやって来る、カラオケ卒業の日

カラオケは心身・脳を駆使する素晴らしい活動のひとつです。できるうちはどんどんやりましょう。ただし身体機能、認知機能の衰えによりいつか思うように歌えなくなる日はやってきます。しかし音楽から離れる必要はありません。そこからはみんなと歌っていけばよいのです。もともとカラオケは歌う人がある程度限られて全体的には活動量があまり多くはないため、集団プログラムよりは自由時間の選択肢に向いています。また聴く側にとって快適ではない歌が続くとストレスの素にもなりますので注意が必要です。うたごえ倶楽部では参加者全員が肉声のため他人の上手下手はほとんど気になりませんので、気軽に参加できます。


hpe4bdbfe794a8e382a4e383a1e383bce382b8p-8e382abe383a9e382aae382b1e58d92e6a5ade381aee697a5

 

 



 

 受動的な生活はアタマに危険

hpe4bdbfe794a8e382a4e383a1e383bce382b8p-7e8aa8de79fa5e79787e3818ce980b2e8a18ce381aee59bb3

 

毎日を受動的に過ごし能動的な知的活動がないと、身体における廃用性症候群と同様に脳の機能は衰退していきます。介護者・施設のほうからなんらかの能動的活動を引き出す環境を提供することがないと、認知症はさらに進行していきます。音楽活動は残存機能の少なくなった方が主体的に参加できる数少ない活動ソフトのひとつです。ぜひご検討下さい。


さらなる高齢化社会へむけて

日本音楽療法学会の理事長である日野原重明先生は、「音楽療法は、音楽を手立てとして、人間の病気を癒し、さらに健康をも増進させることを目的とした治療医学・予防医学の一分野である」と述べています。弊社では音楽のもつさまざまな療法的効果のうち予防効果をメインに据えたプログラムを提供していますが、こうした活動によって高齢化社会の需要にお応えすることでクライアントの皆様に喜んで頂き、継続してセッションの依頼が来ることが評価の証左と考えております。

先の総務省の発表では現在の日本全体の高齢化率はほぼ23%、これから先は歴史上類を見ないスピードで高齢化が進む未知なる領域です。超高齢化社会のモデルとして欧米各国がみなす日本にあって、高齢者施設・地域社会・高齢者世帯に貢献できるよう、サービスの工夫・改善を積み重ねて参ります。


Illustration  drawing:Ayako Yamamoto

coloring:Hiroko Miyazawa

→トップページ


→サービス一覧